トーマス・ルフ、ハイム・スタインバック、杉本博司、橋本晶子

Thomas Ruff, d.o.pe.07 Ⅲ, 2022.

この度ギャラリー小柳では、2023 年 7 月 5 日(水)から 8 月 26 日(土)の会期にて Gallery selection展を開催いたします。本展では、国内初公開となるトーマス・ルフの最新シリーズである、工業用カーペットに「フラクタル」をプリントした「d.o.pe.」、ハイム・スタインバックのドガのミニチュアの彫刻を用いた《Spanish dancer》、杉本博司のプリズムで分光された光を撮影した「OPTICKS」、そして橋本晶子の鉛筆画を家具の中に再構成した作品《Seaside》を展観いたします。

ドイツのデュッセルドルフ芸術アカデミーにてベッヒャー夫婦のもとで写真を学んだトーマス・ルフは、写真の持つ特性を追求した様々なシリーズを展開し、写真に対する既成概念への問いかけを続けてきました。以前から数学の美しさを視覚的に表現する試みのもとに数式を用いた作品を展開してきたルフは、今回のシリーズでは「フラクタル」という、縮尺を変えても同じ形が続いていく幾何学構造に着目しています。雪の結晶のように自然界に現れるその幾何学構造を、最新のソフトウェアを駆使して三次元の仮想空間において人工的に作り出しました。本作はこれまでの写真作品とは異なり、その模様を新たな支持体である工業用カーペットに刷り込むことで、カーペットの毛足による深みと柔らかな質感をもたらしまし た。1960 年代のサイケデリック・アートを彷彿とさせる本作のシリーズは、オルダス・ハクスリーの著書『The Doors of Perception』(1954)に基づき「d.o.pe.」と名付けられています。さらにルフは、ヒエロニムス・ボスやマティアス・グリューネヴァルトのような北方ルネサンスの芸術家たちの鮮やかな色彩と不穏で幻想的な世界観を思い起こさせることで、芸術の創造力に限りはないことを示唆しています。

ニューヨークを拠点に活動するハイム・スタインバックは、「フレーミングデバイス」と呼ぶ 90 度、50度、40 度の角度に定めた三角形を底面とする三角柱状の棚をさまざまな色に加工し、その上に収集したオブジェクトや日用品を整然と並べるインスタレーションで知られています。部屋いっぱいに設置されたインスタレーションには、しばしば漫画や雑誌、広告等から引用したテキストを壁面に貼り、オブジェクトに新たな文脈を提示しています。今回ギャラリー小柳では、普段の作風とは異なる、壁掛けの木製の箱の中にエドガー・ドガによる彫刻《Spanish dancer》の縮小された複製品を収めた作品を展示いたします。美術館の記念品としてフェイクブロンズで作られたその小像は、アンティーク調の椅子の上に乗せられています。スタインバックは本作についてこのように述べています。「ガラスの棚に乗せられた踊り子は、まるで重力に抗うようで、落とされた影はより一層奥行きを深めています。」

杉本博司の「OPTICKS」シリーズは、アイザック・ニュートンのプリズム実験の再現から始まり、杉本が研究と検証を重ね、15 年間かけて完成させたものです。1704 年に出版されたニュートンの『光学

(OPTICKS)』により、白色だと思われていた太陽光が、プリズムによって赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の複数の色から構成されていることが発見されました。杉本は、ニュートンが発明した観測装置を改良し、プリズムを通して分光させた色そのものをポラロイドカメラで撮影しています。本シリーズでは、色と色の隙間に立ち現れる無限の階調を写したポラロイドを、「色の中に溶け込むことができる」ほどの大判プリント作品に仕上げています。

2021 年にギャラリー小柳にて個展を開催した橋本晶子は、細密な鉛筆画を中心に構成したインスタレーションを発表してきました。展示空間に注ぐ光とそれによって作られる影を取り込み、時間や人の移動によって変化する展示空間を作品として見せる自身の手法を「風景をつくる」と表現しています。今回発表する作品では、昨年開催した二人展「Other Rooms」にて展示した作品の一部を、自ら制作した木製の棚の中に収めました。ガラス板に仕切られた棚の中では、透明なスプーンやグラスにかすかな影がゆらめき、奥に添えられた鉛筆画は「遠く」を覗かせます。

ギャラリー小柳

〒104-0061 東京都中央区銀座1丁目1−7-5 銀座小柳ビル 9F

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