ハウザー&ワース香港、アジアのディアスポラの物語を探るグループ展「萬象入身 (Aura Within)」を開催

Luis Chan
Luis Chan Untitled (Legend of Goddesses of the Sea)1968 Acrylic on paper Each: 50 x 76 cm / 19 5/8 x 29 7/8 in Overall: 100 x 152 cm / 39 3/8 x 59 7/8 in © Luis TrustCourtesy of Hanart TZ Gallery

激動の現代において、私たちはどこに精神的な拠り所を見出すべきだろうか。その問いに対し、一つの答えを提示する展覧会が、ハウザー&ワース香港で開催される。アジア文化とそのディアスポラの物語に深く関わる現代美術作家9名の作品を集めたグループ展「萬象入身 (Aura Within)」は、私たちの原点である「身体」を通して、存在と認識、アイデンティティと記憶、そして物理的な風景と内なる安息の地といった普遍的なテーマを深く探求する試みだ。

香港を拠点とするキュレーターであり研究者でもあるアンジェラ・リーが企画を手がけた本展は、Clearing、Hanart TZ Gallery、Make Room、P21、Silverlensといった有力ギャラリーとの協力により実現。ルイス・チャン(陳福善)、チェ・ハヌル、ニコール・コソン、中村翔太、ポン・コー(彭可)、イエ・シーチャン(葉世強)に加え、ハウザー&ワースの所属アーティストであるバーティ・カー、工藤哲巳、ジャン・エンリー(張恩利)が参加し、多様なメディアと視点にまたがる作品を披露する。

Haneyl Choi
Haneyl Choi Landscape of Abuse 2025 Plexiglass board, stainless steel pipe, expanded polystyrene, urethan resin, epoxy resin, silicon, putty, and bronze pipe 200 x 65 x 135 cm / 78 3/4 x 25 5/8 x 53 1/8 in © Haneyl Choi Courtesy the artist and P21 Gallery Photo: Sang-tae Kim

身体という媒介:空間と記憶の交差点

本展において多くの作家は、身体を媒介として個人的な経験や社会現象を表現する。ロンドンを拠点に活動するフィリピン人アーティスト、ニコール・コソンは、香港初公開となる大作の油彩画シリーズ「二重の扉 I & II」で、グローバリゼーションと個人の物語を交錯させる。作家は自らの身体でキャンバスを押し、故郷マニラと香港をつなぐコンテナの扉の形を、深く刻み込まれた記憶の痕跡のように再現する。一方、韓国のアーティスト、チェ・ハヌルは、「虐待の風景」と「遊び:虐待のリズム」において、脆弱な有機的フォルムと冷たい産業素材を並置することで、「トラウマスケープ」という独自の概念を視覚化。闘争と抵抗、束縛と安息、苦痛と治癒といった相反する感情がせめぎ合う様を鮮烈に描き出す。ベルリンを拠点とする日本人アーティスト、中村翔太は、新作「無題(庭)」で美術史、個人的な記憶、ポップカルチャーを織り交ぜ、瞑想にふける人物が周囲の環境と繊細に交感する瞬間を捉え、深い感情的な共鳴と内省を促す。

風景に映る内なる世界

展覧会は物理的な空間を超え、内面の風景に光を当てる作品も網羅する。亡き香港の巨匠、ルイス・チャンの「無題(海の女神の伝説)」は、モノタイプ技法の偶然性を借りて、社会の変容と個人の幻想が交錯する、唯一無二の人物像を立ち上がらせる。台湾の作家イエ・シーチャンは、晩年に隠遁生活を送りながら制作した「窓の中の青い海と白い帆」で、孤独な帆船を描き、単なる風景画を超えて孤高の精神性を映し出す鏡とした。上海とロサンゼルスを拠点とする中国人アーティスト、ポン・コーは、「再び始める」で、写真家の鋭い視点で都市の断片を捉え、これを華麗なステンドグラスのインスタレーションとして再生させ、無機質な都市の秩序の中に人間的な温もりと詩情を吹き込む。

象徴の奥に潜む物語

ロンドンとニューデリーで活動するバーティ・カーは、現実と精神世界をつなぐ文化的象徴である「ビンディ」を用いた代表作3点を通じ、アイデンティティ、ジェンダー、そして精神性を巡る深遠な問いを投げかける。また、日本人アーティスト工藤哲巳の象徴的な「ケージ」シリーズは、現代文明が抱える病理を、ミニチュアの劇場のような檻の中に凝縮させ、痛烈なアレゴリーとして提示する。中国人アーティストのジャン・エンリーは、そのダイナミックで抽象的な筆致で、展覧会全体に力強い生命感を与えている。

本展は、アート界の対話と協力を促進しようとするハウザー&ワースのグローバルなビジョンを反映している。パリとチューリッヒの「ハウザー&ワース・インバイツ」プロジェクトのように、「萬象入身」もまた、共有と協業というアートのエコシステムの価値を実現する重要な事例となるだろう。

Shota Nakamura
Shota Nakamura Untitled (garden) 2025 Oil on linen 110 x 95 cm / 43 1/4 x 37 3/8 in © Shota Nakamura Courtesy the artist and Clearing

展覧会情報

  • 会期: 2025年7月10日~8月30日
  • アーティストトーク: ニコール・コソン、ポン・コー、アンジェラ・リー、トビアス・バーガー / 7月10日、午後5時~6時
  • オープニングレセプション: 7月10日、午後6時~8時
  • キュレーターによるガイドツアー: 7月19日 午後3時、8月23日 午後3時

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