香港 ─ 国際競売会社ボナムズは2025年10月、ヒマラヤ美術研究の第一人者ウルリヒ・フォン・シュレーダー博士のプライベートコレクション37点を香港にて競売に付する。『Reverence:ウルリヒ・フォン・シュレーダー・コレクション 重要ヒマラヤ美術』と題された本競売は、半世紀にわたる体系的収集の精髄を呈示する。主要作品は落札前に上海・北京・台北で特別展示される。
フォン・シュレーダー博士はヒマラヤ美術史研究の学術的基盤を確立したことで知られる。1981年刊行の『インド=チベット青銅器』は12世紀に及ぶチベット金工彫刻の初の体系編年を確立。後続の研究書『チベット仏教彫刻』(2001年)では従来非公開寺院の青銅仏1000体以上を実証記録し、『ネパール石彫』(2019年)ではヒンドゥー=仏教石彫刻3000点近くを悉皆調査した。これらの著作は方法論的厳密性と記述精度により、今日なお学術的規範として機能している。
ボナムズ インド・ヒマラヤ・東南アジア美術部門 国際部長マーク・ラスムセンは次のように評す:
「博士はチベット彫刻の様式変遷を学術的に体系化した先駆者である。60年に亘る研究は本分野の境界を拡張した。2016年当社で実施した博士コレクション競売ではチベット彫刻の最高落札額を記録。今秋新たな選集を呈示できることは栄誉である」
同部門責任研究員ドラ・タンは付言する:
「本コレクションは美術史的意義と文化的共鳴を厳選した碩学の鑑識眼を体現。確たる来歴を有する精緻な仏教小金銅仏から希少な貝葉経、識者向け重要作まで、多岐にわたる品々を網羅する」

主要出品作
- 金銅 ドゥルガー・マヒシャースラマルディニー像
*ネパール マッラ朝三国時代(1550-1650年) 高32cm*
*予想落札額:500-700万HKD(約1.0-1.4億円)*
カトマンズ盆地図像学の規範作。動的構図と静謐な表情の対比がマッラ王朝美術の真髄を示す。 - 銅合金 アヴァローキテーシュヴァラ立像
カシミール 10世紀 高61cm
*予想落札額:500-700万HKD(約1.0-1.4億円)*
現存私蔵大型カシミール青銅仏5点未満の貴重作。蜜色の古色と瞑想態がチベット・中国仏教美術への影響を物語る。 - ジェツン・ドラクパ・ギャルツェン(1147-1216)肖像タンカ
南チベット ンゴル僧院作 1600年頃 綿布・テンペラ 78.5×67cm
*予想落札額:250-350万HKD(約0.5-0.7億円)*
ンゴル・ラムドレ系譜図の重要一点。メトロポリタン美術館やギメ美術館所蔵品と同系列。サキャ派高僧の心理的深みを捉える筆致と特有色調が特徴。
